川崎市立稲田小の水道料金を教員に請求することの妥当性

川崎市立稲田小のプールの水を張る作業で不手際があって、大量の水が無駄になった事案がありました。市民などなら多くの疑問の声が上がっている中、川崎市はいまだに、男性教諭に対して賠償請求する姿勢を崩していません。

今回の事案が発生した経緯は市の発表によると以下の通りです。

  • 5月17日午前に男性教諭が注水スイッチを操作し、プールへの給水を始めた
  • 同時に濾過(ろか)装置も作動してしまい警報音が鳴ったため、教諭は警報音を止めるためにブレーカーを落とした
  • 約6時間後、教諭は水を止めるため注水スイッチを切ったが、ブレーカーを落とした際に電源が喪失しており、注水は続いた
  • この時、教諭は吐水口を目視で確認せず、ミスに気づくまでの5日間でプール6杯分の水が流失した

損害となった上下水道料金は約190万円です。校長と教諭に対して、合わせて半分の約95万円を請求しています。

【追記】

市教委は8月、校長と作業をした教員の過失として、損害の半額の計約95万円を2人に請求し議論を呼びましたが、翌月に約95万円の全額が入金されました。

民間企業であっても過失(重過失ではない)でミスを起こした社員に損害賠償請求をすることはあまり聞きません。裁判例では茨石事件という会社が全額を社員に損害賠償したことを不服とする裁判で1/4程度以下にすべきだという判例がありますので、100%無いわけではないですが、よほどブラックな会社でない限り、社員に弁償をさせるという対応はしていないと思います。

川崎市に対する多くの抗議に対して、福田紀彦市長は2023年8月28日の定例会見で「金額の多寡ではなく、あくまで過失行為に対する責任を判断しなければならない」と述べ、請求は妥当との見解を示しています。

川崎市長の公式サイトには下記の記載があります。

  • 1972年4月20日生まれ。川崎市立長沢小・中学校卒業後、渡米。
  • 米国アトランタ・マッキントッシュ高校卒業。米国ファーマン大学卒業(政治学専攻)。
  • 2003年、神奈川県議会議員に最年少で初当選。
  • 2007年、再選。早稲田大学マニフェスト研究所・客員研究員、県知事秘書などを経て、2013年、川崎市長に初当選。
  • 2017年、史上最多得票で2期目再選。
  • 2021年、史上最多得票を更新し3選を果たす。

もしかすると、民間企業で苦労した経験が少ないかもしれません。上げた拳を下ろせない状況になっているのだとすると、この市長にとっても請求されている教員にとっても非常に残念な状況です。市長は教員不足と賠償請求は「まったく別の話し」と答えていますが、根っこが同じところにあることは自明とも思えます。

こんな話しがまかり通るのであれば、単に教員になる人が少なくなるだけではなく、公務員を目指す人も少なくなるでしょう。

【2025年9月4日追記】

なお、文部科学省では2024年7月10日付で、学校プールの適切な管理を求める通知を出しています。通知の中では、特定の教員にプールの管理業務を任せきりにしに環境整備の徹底を求めたうえで損害賠償請求を一律に行わないように検討を求めています。

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