2019年5月1日に予定されている改元。新しい元号を迎えるにあたっては、日本中のカレンダーや手帳の書き換え、そして何よりも各種コンピュータシステムの事前準備が必須となるため、改元当日よりも少し前に新しい元号の名前(公表)が発表されることになっています。
実は、この「新元号の発表日」の決定を巡って、政府の有識者会議や政治の思惑とは全く別の次元で、米国のマイクロソフト社が提供する基本ソフト「Windows」の仕様が大きな影響を与えていたことが報じられ、話題を呼びました。
当初検討されていた「4月11日発表案」の落とし穴
新聞などの報道によると、政府はもともと新元号の発表日を「4月11日」とする方向で検討を進めていたそうです。しかし、最終的にこの日程は見送られ、10日ほど前倒しした「4月11日」から「4月1日」へと改められました。
その理由は、Windowsが毎月1回、第2水曜日に一斉配信している定期ソフト更新データ(Windows Update)のスケジュールにありました。
2019年4月の第2水曜日は「4月10日」です。もし、新元号の発表がその翌日である「4月11日」になってしまうと、マイクロソフトが新しい元号の文字データをWindowsに組み込んで世界中に配信できる最短のタイミングは、翌月の定期アップデート日である「5月8日」になってしまいます。これでは、5月1日の改元当日にシステム対応が間に合わないという致命的なタイムラグが発生してしまうのです。
なぜ数億円もの追加費用が発生するのか?
一見すると「Windowsのアップデートとは別に、改元対応のデータだけを個別に5月1日までに配信すれば良いのではないか」とも思えます。しかし、企業が実務で使っているWindows上の「会計ソフト」や「税務システム」の目線に立つと、事態はそう単純ではありません。
もしWindows本体が新元号に対応していない(OSが新しい元号を認識できない)状態で、各企業の会計ソフトだけを先行して無理やり新元号に対応させようとすると、システムの構造自体を大幅に書き換える必要が出てきます。OSの基盤に頼らず独自に新元号を処理するプログラムを開発・改修するとなれば、パッケージベンダーや開発企業には数億円規模の莫大な追加費用と人員が急遽発生してしまうという計算になります。
単なる「文字の書き換え」では済まない、システム改修の厄介さ
パッケージソフトを開発するベンダー各社の発表資料を読み解くと、新元号への対応は決して「外部のデータテーブルにある元号の文字を書き換えるだけ」という甘いものではないことが分かります。
例えば、国税庁や自治体に提出する各種帳票の形式(フォーマット)によっては、元号が2文字から新しい2文字に変わることで、画面や印刷時のレイアウト調整が必要になったり、元号の切り替わりをまたぐデータ計算のバグを防ぐロジックを追加したりと、システム全体に及ぶ大きな影響と厄介な課題が山積しています。
そのため、システムを提供するパッケージベンダーとしては、最も安全でコストがかからない方法を選択せざるを得ません。すなわち、「4月1日に政府が新元号を発表 ➔ 4月10日のWindows UpdateでOSに新元号が組み込まれる ➔ そのOSの基盤の上で、各社のパッケージソフトもスムーズに新元号へバージョンアップを完了させる」という、綺麗に連動したスケジュールが不可欠だったのです。
日本の伝統的な文化であり、国家の重大な節目であるはずの新元号の発表時期が、一企業の、それも米国のマイクロソフト社が定める製品アップデートのサイクルによって左右されるという冷徹な現実。すでに私たちの生活や経済の基盤がどれほど深くコンピュータの世界と結びついているかを、改めて思い知らされる大変に驚くべき報道でした。


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